RF計測を高速化させる新技術 ソフトウェア定義のPXI計測器と従来型計測器をベンチマークにより比較
概要
ソフトウェア定義のPXI RF計測器が速度の点で従来の計測器に対していかに優れているかを理解するには、ベンチマークによる比較が有効です。WCDMA計測の結果が示すように、マルチコアプロセッサで並列処理が可能なLabVIEW計測アルゴリズムを使用すると、従来型計測器を実行した場合に比べ実行速度がはるかに向上します。
はじめに
携帯電話、カーナビ、地上デジタルテレビ、Bluetoothアダプタなど、RF技術は日常のあらゆる場面で使われています。消費者としてその重要度を理解するのは簡単ですが、計測・テストをしなければいけないエンジニアにはさらに大きな影響があります。ワイヤレス機器のコストが急速に下がったことで生活は便利になりましたが、自動テストシステムを設計する技術者にとっては新たな難題が生まれています。これまで以上にテストのコスト削減が求められているため、今日の自動テストシステムでは、テスト全体にかかる時間の短縮が最大の関心事となっています。
新しい6.6 GHz RFテストプラットフォーム
NIではそのようなニーズに対応するため、6.6 GHzの高速RF計測プラットフォームを開発しました。新たに発売されたNI PXIe-5663ベクトル信号アナライザ(VSA)とNI PXIe-5673ベクトル信号発生器(VSG)を利用することで、自動RF計測が行える柔軟な高速自動計測ソリューションを構築することができます。NI PXIe-5663は、最大50 MHzの帯域幅で、10 MHzから6.6 GHzまでの信号解析が可能です。NI PXIe-5673は、85 MHzから6.6 GHzまでの信号生成が可能で、100 MHzの帯域幅を提供します。

図1.新しい6.6 GHz RFテストプラットフォームを利用したPXIシステム
6.6 GHz RFテストプラットフォームは、自動テストアプリケーションに最適です。PXIモジュール式計測器でNI LabVIEWを使用した並列計測アルゴリズムを使用することで、従来型計測器をはるかに超えた計測速度を実現することができます。PXIモジュール式計測器が従来型計測器に比べ高速で計測を行える理由を理解するには、PXIモジュール式計測器と従来型計測器のアーキテクチャの違いについて考える必要があります。どちらのシステムでも多くの似通ったコンポーネントを使用しますが、1つの大きな違いは、PXIシステムでは高性能のマルチコアCPUを使用できるという点です。この概念を説明するため、両タイプの計測器を図式化したのが図2です。

図2.ユーザ定義のCPUはPXI RF計測器において極めて重要なコンポーネント
PXI RF計測器と従来型計測器には多くの類似点がありますが、PXIモジュール式計測器で利用できるユーザ定義のマルチコアCPUなら、はるかに高速で計測を行うことができます。多くの場合、RF計測アルゴリズムは並列処理を行うLabVIEWで作成されています。そのため、多くの処理コアを持つプロセッサにアップグレードするだけで、計測全体にかかる時間を短縮することが可能です。CPUのクロック速度(コア数)がムーアの法則に従って増えることで、PXI RFテストシステムの計測速度はさらに飛躍的に向上します。このドキュメントに掲載されたベンチマークデータからわかるように、多くのPXI VSAではプロセッサに負荷のかかるRF計測アルゴリズムを、従来型のベンチトップ(据置型)VSAに比べ最大30倍の速さで実行することができます。
PXI計測の利点を理解するため、生産ラインなどにおける大量のワイヤレス機器のテストを実行する場合について考えてみます。大量のテストを行う場合、テスト時間が製品の売上原価(COGS)のかなりの比率を占めることも少なくありません。さらに、3G UMTS(WCDMA)規格などのワイヤレス通信プロトコルの場合、プロセッサに負荷のかかる計測アルゴリズムには多くの処理能力が必要です。ナショナルインスツルメンツのアライアンスパートナーであるAmFax社は、そのようなアプリケーション向けに、WCDMA PHYレイヤ(物理層)計測用の極めて並列性の高い計測アルゴリズムを提供しています。NI RF計測とパートナーのソフトウェアを組み合わせることで、低コストながら高速、高精度のテストプラットフォームが完成します。
LabVIEWを使用して高速のWCDMA計測を実現
NI PXIe-5663 RF VSAの計測速度および精度の向上は、従来型計測器との比較によって明確になります。いずれの比較対象計測器も比較的新しいRF VSAであり、NI PXIe-5663 RF計測システムよりはるかに高価です。
|
|
計測器A1 |
計測器B2 |
NI PXIe-5663 |
|
計測器のタイプ |
従来型RF VSA |
従来型RF VSA |
PXI Express RF VSA |
|
周波数範囲 |
9 kHz~8 GHz |
1 MHz~8 GHz |
10 MHz~6.6 GHz |
|
発売日 |
2007 |
2006 |
2008 |
1計測器AはRohde & Schwarz FSGです。
2計測器BはRohde & Schwarz FSQです。
表1.PXI計測器と従来型計測器の比較
最も現実に近いベンチマークデータを得るため、PXI計測器と従来型計測器は、規格で定められた計測で実行速度を測定することができます。WCDMAの計測の場合、様々な種類の計測に対して計測器の性能を考慮する必要があります。相補累積分布関数(CCDF)などのPHYレイヤ計測は、長い集録時間を必要とするので、プロセッサの速度にはそれほど影響されません。一方変調精度(EVM)などの復調が必要な計測では、多くの信号処理が行われます。さらに、隣接チャンネル漏れ電力比(ACLR)や占有帯域幅(OBW)などの周波数領域計測でも離散フーリエ変換(DFT)の計算が必要なため、実行速度の測定をお勧めします。
NI TestStandソフトウェアのような一般的なテスト管理アーキテクチャなら、自動計測のシーケンスを短時間で構成することができます。NI TestStandは、計測のシーケンス化のフレームワークを組み込んでいるだけでなく、各テストの計測時間をレポートするように構成することも可能です。図3は、NI TestStandに自動テストシーケンスの計測時間が表示された画面を示しています。
図3.製造テスト環境で計測を自動化するTestStand
図3では、EVM計測ステップ(「Configure NI EVM」と「Measure NI Composite EVM」)を囲むネストされたForループがあります。外側のForループは特定の計測の平均回数を、内側のForループは同じ設定で計測を繰り返します。同じ構成設定で複数の計測を実行することで、計測データの統計的解析を行って結果の平均値と標準偏差を特定することができます。
RF計測器の構成
計測器のベンチマークを行う際は、最高の計測性能を実現できるよう各計測器を構成することが重要です。従来型計測器の場合、各トレースを手作業で平均化するのではなく計測器内蔵の平均関数を使用することで、最高性能を得ることができます。また計測の実行中は、フロントパネル表示をオフにすることをお勧めします。さらに、計測器制御バスも最も効率の高いものを選ぶことが重要です。これらの計測のデータサイズは小さいので、選択した計測器制御バスは遅延時間を最小限にするよう最適化する必要があります。そのため、遅延時間が比較的多いLANより遅延時間が少ないGPIBバスを使用すると、全体の速度が速くなります。原則として、平均化を全く行わない、またはほとんど行わない場合に、遅延時間の影響が大きくなります。
RF VSAの計測速度をベンチマークするには、RF VSGでループバックモードに構成されている必要があります。NI PXIe-5663 VSAを評価するには、新しいNI PXIe-5667 6.6 HGz RF VSGを使用してVSAに対して信号を発生させることができます。WCDMA規格に準拠したこの信号は、中心周波数が1.95 GHzになっている必要があります。RF出力電力を-10 dBmに構成し、発生器を直接VSAに接続します。このハードウェア構成を図4に示します。

図4.ベクトル信号アナライザをベクトル信号発生器に直接接続
計測の反復性などの特性を判断するには実際のテスト対象デバイス(DUT)を使用する必要がありますが、ループバック方式を使用すると計測器の計測性能を示すことができるというメリットがあります。
計測時間のベンチマーク結果
上述の設定を使用して、以下の各計測にかかる時間(秒)を確認します。表2で使用した平均回数は、設計検証にて利用される標準的な回数値です。このドキュメントでは、平均回数と計測の反復性の関係について後ほど詳しく説明します。
|
全て秒単位 |
平均 |
計測器A |
計測器B |
NI PXI-5663 w/NI PXIe-8130 |
NI PXIe-5663 w/NI PXIe-8106 |
NI PXI-5663 w/NI 8353 |
|
CCDF |
100万 |
|
|
|
|
|
|
EVM時間 |
20 |
|
|
|
|
|
|
ACLR時間 |
20 |
|
|
|
|
|
|
OBW時間 |
20 |
|
|
|
|
|
|
総時間 |
|
|
|
|
|
|
|
計測器Aと比較した速度向上 |
|
同じ |
同じ |
6.56倍 |
8.88倍 |
10.53倍 |
表2.従来型計測器とPXI計測器のWCDMA計測時間
表2に示すように、組込またはラックマウントコントローラとともに使用した場合のNI PXIe-5663 RF VSAは、従来型計測器に比べ計測速度が向上しています。また、プロセッサ速度による全体の計測時間への影響を見ることができます。NI PXIe-8130組込コントローラはAMD Turon X2 2.3 GHz CPU、NI PXIe-8106組込コントローラは2.16 GHz Core 2 Duo CPUを搭載しています。クワッドコアプロセッサを搭載したNI 8353 1Uラックマウントコントローラは、2.4 GHz Core 2 Duo CPUを2個搭載しています。CPU性能は計測速度に直接影響するため、クワッドコアコントローラは最速のデュアルコア組込コントローラに比べてもさらに高速で計測を行うことができます。図5は、従来型の計測器と比較した場合計測時間が何倍速くなるかを示しています。

図5.NI 8353 1Uコントローラは従来型計測器に比べテスト速度が10倍以上
ほとんどのWCDMA PHYレイヤ計測では、処理時間が全体の計測時間に最も大きく影響します。そのような計測では、多くの場合全計測時間は使用した平均回数に比例します。ただしCCDFのように特別に長い集録サイズが必要な計測だけは例外です。このような場合、プロセッサによる全体の計測時間への影響は少なくなります。図6に示すように、CCDF計測の場合、PXI計測システムは従来型計測器よりわずかに速い程度です。
図6.平均回数によるCCDF計測時間への影響はわずか
PXI計測における性能の向上を正確に特定するには、このような計測を複数回行う必要があります。下図のデータは全て、各構成で10回計測を行った平均値です。図6では、PXIベースの計測システムを使用することで、従来型計測器の場合に比べCCDFの計測時間が33%短縮されていることがわかります。また、このデータではNI 8353クワッドコアラックマウントコントローラが最速であることもわかります。
プロセッサに負荷のかかるPHYレイヤ計測の場合は、どのプロセッサを選ぶかによって全体の計測時間に大きく影響します。図7から図9は、従来型計測器とPXI計測器における計測時間と平均回数の関係を示しています。
図7.プロセッサに負荷のかかる計測ではPXI計測器が最大の性能向上を実現
プロセッサに負荷のかかるEVMなどの計測では、コントローラの種類によって計測時間が大きく変わります。例えば、EVM計測の5回分を平均した場合、NI PXIe-8130組込デュアルコアコントローラでは342マイクロ秒かかっていたものが、NI 8353クワッドコアコントローラでは33%減の228マイクロ秒となっています。図8に示すように、隣接チャンネル漏れ電力比(ACLR)計測でも同様に結果が得られています。
図8.ACLRの計測時間と平均回数の関係
ACLRの計測速度は、PXIRF計測システムを使用すると16倍以上にもなります。典型的なACLR計測時間(セットアップ時間を含まない)は8ミリ秒以下です。これは時間領域でACLRを計測する方法よりも高速です。図9は、占有帯域幅(OBW)の結果を示しています。
図9.占有帯域幅計測はPXI計測器を使用することで30倍に高速化
図9が示すように、PXI RF計測器の場合一部の計測で従来型計測器に比べ同様に30倍の速度が得られます。さらに、絶対計測時間の向上は、有効平均が必要な状況では特に顕著です。
計測の平均化と反復性
平均化を行うと全体のテスト時間が大幅に増える場合がありますが、より反復性の高い計測を実現するために平均化が必要となることもあります。実際に計測の平均化により計測時間が増えるため、反復性と平均回数の関係性を理解しておくことは重要です。平均化によりノイズが軽減されることがあるため、平均回数の増加に伴って実行間の反復性が高まることがわかります。図10は、EVM標準偏差と各計測の構成における平均回数を比較したものです。
図10.EVM標準偏差と平均回数の関係
図10の結果を見ると、全てのEVM計測が1 WCDMAフレーム(2,600チップに相当)にわたって行われていることがわかります。計測の反復性と平均回数の間の関係を確認してください。図10のデータを算出するために使用した計測は1,000回分のみですが、多くの製造テストアプリケーションではそれよりはるかに多いデータのテストが行われます。実際に、計測の反復性を示す正確なモデルを引き出すには、複数の計測器を使用して多くのテストを行う必要があります。
NI PXIe-5663 RF VSAをNI PXIe-5673 RF VSGでループバックモードに構成した場合、1パーセント以下のVM計測を簡単に実現できます。表3は、様々な構成での平均値と標準偏差を示しています。
|
回数 |
平均回数 |
平均EVM値 |
標準偏差 |
|
1000 |
1 |
0.82343% |
0.01276% |
|
1000 |
5 |
0.82171% |
0.00398% |
|
1000 |
10 |
0.82076% |
0.00225% |
|
1000 |
25 |
0.82055% |
0.00143% |
|
1000 |
50 |
0.82056% |
0.00098% |
|
1000 |
100 |
0.82063% |
0.00066% |
表3.平均回数を基準としたEVMと標準偏差
NI PXIe-5663 RF VSAとNI PXIe-5673 RF VSGは、WCDMA規格において正確かつ反復性の高いEVM計測を実現します。
まとめ
ワイヤレス技術の普及が加速するのに伴い、テスト時間短縮への重圧も高まるばかりです。幸いPXI計測システムを使用すれば、コンピュータ技術の進化を活用することができます。本ドキュメントのデータが示すように、PXIのマルチコアプロセッサ上で実行する並列計測アルゴリズムは、従来型計測器で同様のアルゴリズムを実行する場合に比べはるかに高速です。そのため、ナショナルインスツルメンツの新しいPXI 6.6 GHz RF計測プラットフォームを使用すれば、RFテストのコスト削減への日々高まるニーズにも応えることができます。このプラットフォームの詳細については、弊社Webサイトをご覧ください。
日本ナショナルインスツルメンツのアライアンスパートナーは、日本アライアンスプログラムに参加しているシステムインテグレータを中心としたパートナー企業で、代理店の関係は有していません。
法律関連事項
本チュートリアル(以下「チュートリアル」という)は、National Instruments(以下「NI」という)によって作成されたものです。本チュートリアルは、NIにてサポートされていますが、本チュートリアルの内容に関するテストや検査が完全に行われていない可能性があり、チュートリアルの品質について、もしくは、関連製品およびドライバの各改訂版に対するサポート継続については、何らの保証も適用されません。本チュートリアルは、いかなる保証もなく「作成された状態のまま」で提供されており、ni.com/jpの使用条件に特別に規定されている特定の制約事項に従うものとします。 (http://ni.com/legal/termsofuse/japan/ja/)






