有線システムでのワイヤレスネットワークの導入
ワイヤレス技術は、ケーブルコストの削減や、以前は物理的に不可能だった場所での計測、分散型計測、自己回復型のインテリジェントネットワークなど、多くの可能性を秘めています。未来の計測システムの形成に、ワイヤレスが大きな役割を果たす準備は整っています。しかし、どのような役割を、どのようにして果たすのでしょうか。ワイヤレスは有線システムに取って代わるのでしょうか。今ある設備投資を将来にも役立てることはできるのでしょうか。ワイヤレスデータ集録デバイスを選ぶ際に決めておくべきことは何でしょうか。ワイヤレスが適さないのはどのような場合でしょうか。
既存の計測システムが技術的に旧式化する前に、多くの点について検討し、さらにあらゆる可能性について考慮することが必要です。この技術資料では、ワイヤレス計測システムの設計上の検討事項について考えるとともに、既存の有線システムにワイヤレス技術を組込む方法について解説します。
ワイヤレス計測システム
テスト、計測、制御アプリケーションにおけるワイヤレス技術の採用は、家庭電化製品に比べると遅れをとっていますが、関心が低いわけではありません。ただし、有線システムをワイヤレスに変えるのは単純な作業ではなく、ただワイヤを外してワイヤレスネットワークに繋げればいいというものではありません。数十年にわたる経験と実績、技術の進歩の中、技術者はワイヤレスシステムでは対応できない機能を計測システムに求めるようになりました。ワイヤレスシステムの導入を検討する多くの人にとって気がかりなのは、セキュリティと信頼性です。そのような問題点に対処するため、半導体メーカーなどが主導する無線規格団体は、新しいワイヤレスプロトコルが規格化されるたびにセキュリティと信頼性の面で強化を図っています。そのためデータ集録製品のメーカーは、規格に準拠した無線/ソフトウェアアーキテクチャを使用することで、強化されたセキュリティ機能と信頼性を製品に組込むことが可能となっています。 |
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それでも、データの帯域幅や遅延時間、同期、I/Oの選択、マルチベンダシステムにおける統合など、既存の有線システムに比べると様々なことが問題になります。 |
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帯域幅と遅延時間
PCベースの計測システムは、通信に使用するバスの帯域幅や遅延時間など物理的仕様によってしばしば制約を受けます。帯域幅とは、ある一定の時間内にバス経由で転送できるデータの量のことです。遅延時間とは、大まかにデータが出発地点から目的地に到達までの時間のことです。現在データ集録アプリケーションに使用されているワイヤレスと他の一般的なバス(PCI Express、PXI、USB 2.0)とで帯域幅と遅延時間の仕様を比較すると、タイムマシンで25年前にさかのぼったような気分になります。
ワイヤレス計測製品で採用されているワイヤレスネットワークの中で最も一般的なのは、IEEE 802.11とIEEE 802.15.4です。IEEE 802.11はWi-Fiとも呼ばれ、家庭や会社のネットワークに広く採用されています。IEEE 802.15.4は、ZigBeeのベースとなるプロトコルで、低電力の分散ネットワークによく使用されています。この2つのバスの理論上の帯域幅は、1980年代に普及していたISAバスと同じか劣る程度です。第一世代のx1(バイワン)PCI Expressリンクと比較すると、802.11n(最新版)と802.15.4の帯域幅はそれぞれ10分の1と1000分の1に過ぎません。
ワイヤレスネットワークに特有の制約を考えると、全てのケースで有線システムに取って代わることができるわけではないのは明らかです。高速の多チャンネルダイナミック計測は、PCに物理的に接続された広帯域バスを利用することで、今後ともメリットを得ることができます。既存のバスで帯域幅による制約を受けないその他の低速(スタティック)計測や少チャンネルダイナミック/センサ計測などは、ワイヤレス技術を利用することでメリットが得られます。
同期
ほとんどの計測システムで重視される基準として、複数のチャンネル、デバイス、システム間での計測の同期があります。同期を行うには様々な方法がありますが、一般的には物理配線を通してクロックまたはトリガ信号を共有するか、あるいは複数のローカルタイムベースが共通の時間にオシレータを同期させて、同様の周波数で動作します。これらの同期技術には、それぞれメリットとデメリットがあります。信号による同期は異なるチャンネル、デバイス、およびシステム間でより精度(ナノ秒またはピコ秒レベル)の高い同期が可能ですが、同期システム間の距離は制限されます(最大100 m以下)。タイムベース方式の場合は、より長い距離でシステムの同期が可能(GPSを使えばほぼ制限なし)ですが、精度は低下します(通常ミリ秒程度)。
タイミングとトリガに関しては、多くのワイヤレス計測システムはそれぞれ独立して動作しているため、信号や時間に基づいた信号を共有して同期させることができません。複数チャンネルの集録データと信号の位相関係が関連する計測では、高精度の結果を得るのに同期が極めて重要となります。そのようなシステムで使用されている多くの有線計測システムには、非常に精度の高いタイムベース、位相ロックループ(PLL)回路、インピーダンスマッチングされた信号経路が導入されています。原理のみに基づけば、厳しい同期条件を満たすには有線システムが最適です。ただし、有線、無線いずれのネットワークも、IEEE 1588やGPS技術が示すように、新規格やさらなる研究の恩恵を受けることで同期精度の向上は可能です。
I/Oの選択と電源
ワイヤレスは関心の高い技術ですが、テスト、計測、制御業界に関して言えばまだ発展中の技術です。そのため、I/Oとして使用できるデバイスの数や機能は限られています。センサは数百種類ありますが、正確な計測を行うにはそれぞれのセンサにあった信号調節回路が必要です。ナショナルインスツルメンツは20年以上にわたってPCベースの計測製品を開発してきました。これまでに世界で5000万チャンネル以上を販売しています。ワイヤレス計測システムは、それらの既存のチャンネルに取って代わるものではありませんが、必要な部分で既存のシステムを補うことができます。
ワイヤレスネットワークの課題の1つとして電源の確保があります。これはアプリケーションにより異なります。例えば化学工場では、ネットワーク接続をするよりも電源をつなげるほうが容易なことがあります。そのような場合は、ネットワークケーブルを取り除くことの方が意味があります。その他のアプリケーションでは、ワイヤレスネットワークは完全にケーブルを取り払う必要があります。ZigBeeのベースとなるIEEE 802.15.4は、遠く離れた場所での分散監視アプリケーションに利用できるよう設計されており、収集するデータの量と転送に使用する周波数を制限すれば、何年もバッテリを交換せずに作動させることができます。
マルチベンダシステム内での統合
既存のワイヤレス計測システムで最大の制約となるのが、有線、無線に関わらず、他の計測・制御システムとの統合が効率的に行えないことです。多くの業界で言われるように、新しい技術の場合、完全性や互換性よりもソリューションの早期市場投入の方が重要と考えることが少なくないため、相互互換性は後回しになりがちです。
例えば、ソフトウェアの統合性です。『Control Engineering』誌のプロセス産業担当記者が2007年11月号のワイヤレストポロジに関する記事で述べているように、データをデバイスから制御システムに取り込む場合、通常はプラットフォーム間で互換性のない専用ソフトウェアを使用します。 そのため、様々なワイヤレス計測システムを同時に行う場合、専用ソフトウェアを別々に使用する必要があり、1つのソフトウェアに統合できないという問題が発生します。ワイヤレス計測システムが広く採用されるためには、高いレベルでソフトウェア環境の統合を実現する必要があります。
ハイブリッド計測システムとワイヤレス技術
既存のワイヤレス技術にはまだ制約があるため、多くのアプリケーションではワイヤレスのみのソリューション構築は難しい状況です。多くの計測システムには、帯域幅、同期、I/Oの可用性、電源条件、システム統合などの要件があるため、有線システムの統合が必要となっています。ワイヤレス技術の最大のメリットは、ハイブリッドシステムで使用することで明らかになります。ハイブリッドシステムとは、位置やデータ転送方式、ベンダなど関係なく、複数の計測・制御プラットフォームのコンポーネントを組み合わせたものです。ハイブリッドシステムは、PCアーキテクチャを中心に構築されており、EthernetまたはGPIB対応のスタンドアロン計測器、PCベースのPXI計測器、USB経由のポータブル計測、Wi-FiまたはZigBee経由のワイヤレス計測などを組み合わせることができます。計測・制御システム全体の管理や通信には、オープンソフトウェア開発環境を使用します。
図1.ハイブリッド計測システムは、オープンソフトウェアプラットフォームを介して、様々な通信バスやベンダの計測製品を組み合わせています。
ハイブリッドシステムの作成と保守において重要なのは、複数のバスを透過的に導入し、オープンソフトウェアプラットフォームを使ってベンダ固有システム間での通信を行うシステムアーキテクチャを実装することです。このような方法なら、タスクの仕様に基づき特定のタスクに最適なデータ集録・制御ハードウェアを選ぶことができます。NI LabVIEWは、システム全体の動作に重要な役割を果たします。LabVIEWを使用すると、PCベースのデータ集録、モジュール式計測、スタンドアロン計測、新しいワイヤレス製品の統合など、既存の計測システムを再利用することが可能となります。LabVIEWとワイヤレス技術の統合例には、以下のようなものがあります。
- TCP/IPを含む内蔵LabVIEWライブラリを使用した標準のプロトコル経由での通信
- LabVIEW PDAモジュールを用いてLabVIEWをPDAに実装し、Wi-Fi/Bluetoothで通信
- NI CompactRIOやCompact FieldPointなど、既存のEthernetベースのNI PAC(プログラマブルオートメーションコントローラ)を工業用Wi-FiアクセスポイントやGPS無線に接続
- 付属のLabVIEW計測器ドライバを使用して、他社製の様々なワイヤレスセンサノードと通信
ワイヤレス計測器と既存のシステムの統合に関する詳細は、技術資料ワイヤレス計測システムの開発(英語)を参照してください。
有線システムとワイヤレスシステムの共存
近い将来一般的になると思われる技術の中で、ワイヤレスはデータ集録に利用できる最も有望な技術の1つです。ただし新技術が採用される過渡期には、旧技術との相互運用が求められます。この傾向は、テスト・計測でも同様です。新しいシステムではモジュール式のPXIと旧タイプのスタンドアロンVXI計測などをともに使用することが必要になります。LabVIEWのようなオープンソフトウェアプラットフォームを使用すれば、ワイヤレス計測機能を追加できますので、ワイヤレス技術のメリットを活かしつつ、既存の計測システムの資産を再利用することも可能となります。
Webイベント: NI LabVIEWおよびWi-Fi I/Oを使用したシンプルなリモート監視
法律関連事項
本チュートリアル(以下「チュートリアル」という)は、National Instruments(以下「NI」という)によって作成されたものです。本チュートリアルは、NIにてサポートされていますが、本チュートリアルの内容に関するテストや検査が完全に行われていない可能性があり、チュートリアルの品質について、もしくは、関連製品およびドライバの各改訂版に対するサポート継続については、何らの保証も適用されません。本チュートリアルは、いかなる保証もなく「作成された状態のまま」で提供されており、ni.com/jpの使用条件に特別に規定されている特定の制約事項に従うものとします。 (http://ni.com/legal/termsofuse/japan/ja/)


