Overview
このドキュメントでは、NI-TClk技術を使用したモジュール式計測器の同期がベースバンドIQ生成、複数入力複数出力(MIMO)システム、オーディオ/ビデオテスト、ADC特性、および超音波フェイズドアレイの画像処理などのアプリケーションにもたらす利点について解説します。
Table of Contents
はじめに
このチュートリアルは、ナショナルインスツルメンツの信号発生器の基礎シリーズの一環です。このシリーズの各チュートリアルでは、信号発生器のアーキテクチャ、機能、またはアプリケーションについての基本概念を解説します。
多くの最新自動テスト装置(ATE)システムでは、システムの刺激として同期した複数チャンネルから信号生成が必要です。NI信号発生器は、PXIプラットフォームで使用可能なタイミングおよび同期機能を搭載しているため、これらのアプリケーションの要件を満たすことができます。このドキュメントでは、PXIプラットフォームの概念、ps(ピコ秒)レベルの同期を実現する技術、複数チャンネルと複数のデバイスの同期をメリットとしたアプリケーション例について説明します。これらのアプリケーションには、ベースバンドIQ生成、複数入力複数出力(MIMO)システム、オーディオ/ビデオテスト、ADC特性が含まれます。
信号発生器のクロックアーキテクチャ
信号発生器では、任意波形発生器、デジタイザ、高速デジタル波形発生器/アナライザなど多くのNIモジュール式計測器で実装されているSMC(Synchronization and Memory Core)が搭載されています。このアーキテクチャは、複数の計測器がタイミングおよび同期信号を共有するメカニズムを提供します。さらに、SMCは共通の入力/出力エンジン、トリガ/イベントコントローラを使用しています。計測器間においてpsレベルの同期を実現するモジュール式計測器のアーキテクチャの詳細については、『ナショナルインスツルメンツのSynchronization and Memory Core(SMC) ~ミックスドシグナルテストのための新しいアーキテクチャ~』を参照してください。
SMCアーキテクチャにより、信号発生器が他の計測器と外部信号を共有するため、複数チャンネルの同期が実現します。以下のブロック図は、一般的な信号発生器を示します。
図1. 信号発生器のブロック図
ブロック図が示すように、各信号発生器は共通のクロック信号を活用して、複数チャンネルの出力を同期します。以下のセクションでは、この機能を実現する基本的な技術、計測器間で正確な同期を必要とするいくつかのアプリケーションの詳細について解説します。これには、チャンネル間の最小スキューで信号を生成する複数チャンネルが必要なアプリケーションが含まれます。また、異なるタイプの計測器間で同期を必要とするアプリケーションについても取り上げます。
NI-TClkの概要
複数の計測器間で最も正確な同期を提供する共通のAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)は、NI-TClk APIです。同期は、2つの信号(PXI基準クロック)とトリガクロック(TClk)と呼ばれる信号を共有することで実現します。特許申請中のルーチンを通して、NI-TClkドライバはPXI基準クロックやトリガクロックなど共通の信号を使用して、複数の計測器が正確に同期しているかどうかを確認することができます。このAPIにより、共通の基準クロックは各計測器が同じタイムベースとして共有することを保証します。さらに、トリガクロックにより、各デバイスがPXIトリガラインの伝播遅延を計算して、各モジュールが同じクロックエッジで開始トリガを受信するかどうかを確認することができます。その結果、NI-TClkドライバは3つのシンプルなVIで1ns(ナノ秒)未満のスキューを実現する方法を提供します。さらに、キャリブレーション手順を行えば、20 ps以内のスキューを実現することが可能です。
NI-TClk APIで複数の計測器間におけるサブnsの同期を実現する方法の詳細については、『T-Clockテクノロジを使ったモジュール式計測器のタイミングと同期』を参照してください。
ソフトウェアインタフェース
NI-TClk技術の明らかな利点の1つは、シンプルなプログラミングインタフェースです。図2のブロックダイアグラムでは、複数の信号発生器を同期するために3つのNI-TClk VIを使用しています。
図2. NI-TClk API
上記のブロックダイアグラムが示すように、標準NI-FGEN APIを使用して、各信号発生器を別々に構成することができます。実際に、複数の計測器の同期に必要なプログラミングの手順は、青色の関数で3つのNI-TClkサブルーチンの使用のみです。これらのサブルーチンの最後ですべての信号を生成開始します。これらのシンプルなルーチンの実行により、TClk同期は1 ns以内のスキューで複数チャンネルを生成することができます。さらに高精度の同期を保証するために、NI-TClkプロパティノードを使用して、個々のチャンネルにおけるケーブル長などの要素を考慮するための遅延を手動で微調整することができます。
同期性能
NI-TClk技術の性能は、PXI基準クロックのスロット間スキュー、トリガラインの伝播遅延を測定する回路の確度により制限されます。NI-TClkプロパティノード(図3)を使用すれば、スロット間のスキューをほぼ完全に除去することができます。したがって、このプロパティノードでシステムのキャリブレーションを行うと、20psの同期レベルを実現することが可能です。
図3. NI-TClkプロパティノード
NI信号発生器を使用した同期性能を示すために、NIでは100 MS/sで5 MHzの正弦波を生成するように2台のNI PXI-5421モジュールを構成してテストを行いました。さらに、PXIシステムのスロット間スキューを考慮するように、1台の信号発生器をサンプルクロック遅延のキャリブレーションを手動で行いました。その結果、信号発生器間のスキューは20ps以内になりました。図4は、その結果を示した1,000回のスキュー測定のヒストグラムです。
図4. ガウス分布として表した2チャンネル間の位相差
図4が示すように、2チャンネル間の位相差はガウス分布として表されます。また、以下の式を使用して平均の位相差(単位: ゚ )を計算することができます。
位相差 = 信号周波数 × スキュー × 360゚
したがって、このテスト例では信号周波数は5 MHzで、最大スキューは20psです。これを計算式に当てはめると、以下に示すように0.18゚ の最大位相差になります。
位相差 = 5 MHz × 20 ps × 360゚
後述のセクションで示すように、特定のアプリケーションでは信号発生器間の正確な同期が必要です。たとえば、2台の任意波形発生器を使用してIQ変調器を作成するには、チャンネル間の正確な同期が必要になります。
複数チャンネルの信号生成アプリケーション
多くのアプリケーションは、複数の信号発生器間の正確な同期が必須要件となります。これらのアプリケーションには、無線周波数集積回路(RFIC)用ベースバンドIQ生成、複数入力複数出力(MIMO)テストシステム、オーディオ/ビデオ信号生成、ADC特性、および超音波フェイズドアレイシステムなどがあります。これらの各アプリケーションの一般的なテストについて以下で説明します。
ベースバンドIQ生成
ベースバンドIQ発生器の最も重要な要件の1つは、各チャンネル間の正確な同期です。IおよびQベースバンド信号を完全に同期して直交スキューを回避するのが理想です。実際は、IおよびQ間の位相差が小さくても、不要なスペクトル画像が発生する可能性があります。NI-TClkドライバは、IおよびQのチャンネル同期に理想的なソリューションを提供します。NI PXI-5441任意波形発生器で使用可能なオンボード信号処理(OSP)は、パルス整形フィルタ処理を行い、システム障害を調整します。PXI-5441信号発生器のOSP機能の詳細については、『オンボード信号処理(OSP)機能を搭載したNI信号発生器』を参照してください。
図5は、無線周波数集積回路(RFIC)のテスト構成を示します。この構成では、2台のPXI-5441任意波形発生器を同期して、90゚ の位相差があるIおよびQを生成することができます。

図5. 無線周波数集積回路のテスト構成(シングルエンド)
ベースバンドIQの生成では、NI-TClkプロパティノードを使用して、信号発生器の同期レベルが20ps以内になるようにキャリブレーションを行うことを推奨します。また、『Benefits of SMC-Based Arbitrary Waveform Generators for I/Q Signal Generation』には、ベースバンド生成のためにOSPとNI-TClkを同期する利点の詳細が記載されています。
多くのRFICでは差動IおよびQの入力が使用されます。これらのアプリケーションでは、4台の任意波形発生器が同期され、適切なチャンネルに接続されます。このシステムのブロック図を下記に示します。

図6. 差動ダイレクトアップコンバータのテスト構成
図6が示すように、差動IおよびQ信号を使用したRFICには、テスト信号を生成するために4台のDACが必要です。T-Clk同期ですべての信号発生器を同期して、キャリブレーションなしで1ns以内のスキューを実現することができます。また、キャリブレーションを実行することで、20ps以内のスキューを実現することもできます。10 MHzのベースバンド信号では、これは0.05%のスキューになります。直交スキューをIおよびQ間における理想的な90゚ の位相シフトで位相差を0.18゚ 以内に減らすことができます。
複数入力複数出力(MIMO)通信システム
複数入力複数出力(MIMO)通信システムをテストする際、複数の信号発生器の同期も重要になります。通信システム技術であるMIMOは、増加している通信システムでその人気を高めています。スペクトルの効率性を高め、マルチパスの干渉を減らすために複数のアンテナが使用されます。
MIMOシステムでは複数チャンネルの生成が必要なため、それらのチャンネル間の同期は非常に重要です。一般的なMIMOシステムでは、2~8台までの信号発生器を同期して、内部発振器(LO)を共有する個々のアップコンバータに出力します。ダイレクト(ホモダイン)アップコンバージョンを使用すると、信号発生器をペアにして各アップコンバータ用のベースバンドIQ信号を生成することが可能です。ヘテロダインアップコンバータには中間周波数(IF)信号が必要になります。PXI-5441を使用してベースバンド信号を最大43 MHzまでのIF周波数にデジタルアップコンバートできるため、各ヘテロダインアップコンバータには信号発生器が1台のみ必要となります。図7は、一般的なシステム構成を示します。

図7. MIMOシステムにおける信号生成の構成
MIMOシステムの中には、各アップコンバータのRF出力を同期することは重要ですが、位相が必ずしも一致する必要がない場合があります。このような場合、複数のNI PXI-5671モジュールを使用してMIMOの信号を生成することができます。ただし、一般的なMIMOシステムでは、アンテナ出力が同期され、かつ位相が一致している必要があります。このようなシステムにおいて、各アップコンバータは内部発振器を共有する必要もあります。したがって図7に示すように、マスタアップコンバータは3台のスレーブモジュールと内部発振器を共有します。その結果、各アンテナ間の位相関係がRF出力で維持されます。
オーディオ/ビデオATEシステムのテスト
オーディオ/ビデオなどミックスドシグナルを必要とするシステムでは、複数の任意波形発生器間を同期すると、これらのチャンネル間の同期が実現します。たとえば、AVシステムをテストする時、オーディオとビデオチャンネルを同期する必要があります。NI信号発生器を使用すると、1nsまでの同期を容易に実現し、同期の要件を満たすことができます。図8は、一般的なテストシステムのブロック図を示します。

図8. オーディオ/ビデオテストの構成
一般的なテストシステムでのビデオ生成では、多くのエンジニアがNI信号発生器の大容量オンボードメモリを使用しています。生成可能なビデオ信号のタイプの詳細なチュートリアルについては、ビデオ信号計測・生成の基本を参照してください。
複数計測器のテストアプリケーション
上記に示すように、複数の刺激チャンネルを必要とするアプリケーションのためにNI信号発生器を相互に正確に同期することができます。さらに、複数の信号発生器間での同期を実現する同じSMCアーキテクチャは、他の計測器間との同期も提供します。同じNI-TClkプログラミングインタフェースを使用すれば、複数台の信号発生器を高速デジタル波形発生器/アナライザおよび高速デジタイザと同期することが可能です。後述のセクションでは、複数のPXI計測器間で同期機能を活用したアプリケーションについて学習します。
複数チャンネルADCでのチャンネルクロストークのテスト
信号発生器を他のハードウェアと同期する必要がある測定の1つとして、複数チャンネルADCの特定用途向け集積回路(ASIC)でのクロストーク測定があります。この測定では、NI-TClk APIを使用してアナログ正弦波の生成とデジタルADC出力の集録を同期することができます。このテストは、複数のADCを含むASICで最も一般的に行われています。
チャンネルクロストークは注意してICを設計により低減することができますが、完全に除去することはできません。したがって、複数チャンネルのADC ASICでクロストークを特徴づけることが重要になります。チャンネルクロストークの影響を測定するには、隣接するチャンネルでの応答を測定している間に、1つ以上のADCを最大入力レンジで駆動します。図9はこのテスト構成を示します。

図9. ADCチャンネルクロストークの特性
図9が示すように、2台のNI 5406任意関数発生器を使用して、異なる周波数および最大入力レンジでの正弦波信号を2つの ADC(ADC0とADC1)に供給することができます。また、図中のADC2は入力信号で駆動せず、浮動状態のままです。これに対して最大100 MHzでデジタルデータの16ラインをクロックできるPXI-6552高速デジタルI/Oアナライザは、ASICにクロック信号を提供し、待機状態の各ADCの応答をキャプチャします。最後に、この波形はLabVIEWで解析して、待機状態のADCの応答を完全に特徴づけることが可能です。
チャンネルクロストークの特性テストでは、複数の計測器の同期が必要になります。上記の例が示すように、NI-TClkを使用して、信号を生成している2つのチャンネルをデジタル波形集録の14個のチャンネルと同期することができます。さらに、3つのシンプルなLabVIEW VIを追加すれば、これらの計測器は1ns未満のチャンネル間スキューを実現することができます。
超音波フェイズドアレイ
非破壊テストにおける超音波画像処理においても、刺激と応答間の正確な同期が必要です。通常、超音波信号の周波数範囲は20 kHz~25 MHz以上です。超音波テストの基本的な考えは、初期パルスを持つシステムを刺激し、システムが返す反射を特徴づけることです。一般的なテストは、刺激を提供する任意波形発生器と応答をキャプチャする高速デジタイザを使用します。次に、応答がパルス遅延と振幅に応じて特徴づけられます。したがって、パルス遅延を測定する時、超音波画像処理システムの1つの基本的な要件は、信号発生器と高速デジタイザ間の正確な同期になります。図10は、初期パルスと生成される反射を含むこの概念を示します。

図10. 超音波テストのパルス特性
NI PXI-5105デジタイザと任意波形発生器を使用して、超音波フェイズドアレイの画像処理を作成することができます。1つのパルス生成とデジタイザの8つのチャンネルでの同時集録を同期すると、非破壊テストの時間を短縮することが可能です。このシステムのブロック図を下記に示します。

図11. 超音波フェイズドアレイのシステム図
図11が示すように、1台の任意波形発生器を使用して、テスト対象物の複数の部分を刺激することができます。製品の不具合により反射が発生するので、PXI-5105でキャプチャすることが可能です。この製品の詳細については、PXI-5105 Digitizer 7-Minute Demoを参照してください。
まとめ
信号発生器と他の計測器間の同期は、次世代自動テストシステムを開発する上で非常に重要な要素の一つです。多くのNIモジュール式計測器は、特許申請中のTClk技術を使用して、psレベルの同期を実現します。その結果、1つのPXIシステムで複数の入力および計測器を必要とするアプリケーションの要件を満たすことができます。
関連リンク
関連製品
PXI-6552 100 MHzデジタル波形発生器/アナライザ
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